Craftsmen
縫い方を、
言葉で説明するのは難しい。
私の担当している班は前見返し班と言います。前見返しはジャケットを開いた時の内側を指し、内ポケットが付いている胸のあたりから下の部分を言います。見返し部分と裏地を縫い合わせたり、ポケットをつくったり、洗濯表示などのラベルを縫い付けるのもこの班の仕事です。
縫製は私たちの班以外に背広・前身頃・袖・芯地などそれぞれのパーツをつくる班に分かれていてます。私はサンヨーインダストリーに入社して以来ずっとこの班に所属し、前見返し班の中での技術を磨いています。
今はリーダーとして同じ班の人に教える立場ではありますが、縫い方に正解はないと思っています。手の置き方や力加減ひとつとっても個人差があるので、結局はひとりひとりが自分で見つけて体で覚えていくしかなく、これで良いというわかりやすいゴールは存在しません。
苦労するところは、
まだまだある。
何度やっても大変だなと思うのは、曲線の部分です。スーツに使われる布は薄いものが多いため、手の動きを布に伝えるのにもコツがいります。抑え方によって生地自体が変形してしまうため、自然な曲線を描くには目と手と両方の感覚に注意を払って進めていく必要があります。下をひっぱたり、針を刺したまま回したり、いろんなやり方がありますが布によってもその加減は異なります。
あと、前見返しは本当に色々なデザインがあります。特に表地と裏地が重なる部分で、細かいデザインがあると苦労します。布が重なっている部分で表地を綺麗に直線でみせたり、角をつくるのは難しいのです。とにかく、きちんと印に合わせること、あとは進めながら調整を加えていくとしか言いようがないです。
ミシンに触れている時間が、
単純に好きです。
もともとミシンをいじるのが好きなんです。学生の頃からクッションカバーをつくったり、裁縫を学ぶ学校にも通っていました。それでも、入社した当初は業務用のミシンを使って真っ直ぐ縫う練習から始まり、本当に少しづつ少しずつ覚えていきました。
正直、何かを意識して考えて手を動かしているという感覚はありません。品質は最後の出来上がりに必ず表れるので、縫っている時は布の動きを感じながら手を動かすことに、ただただ集中しています。頭で考えてすぐに出来るということではなく、何度も何度もやることで体に染み付いて、いつの間にかどうしたら良いか考えながら出来る事が増えていくのだと思っています。
昔に比べて、扱うブランド数やオーダーの数が増えてより技術は複雑になっていると思います。オーダーは、ひとつひとつ違うので注意しなくてはいけない事も増えます。でも、とりあえず、やってみる。やってみないことには解決策も課題点もわかりません。ただ与えられたデザインを綺麗に表現したい、その意識を持って応えていくだけです。