[芯据え]しつけ縫い
●本動画には工場長の解説がナレーションとして入っています。そちらをお聞きいただきながら技術のポイントをつかんでください
しつける。日本語としては、深い意味を持つ言葉です。"躾け"と書けば、"教えて身につけさせる"ことを指し、厳しさと愛情を伴う人間の機微が表れます。また、"仕付け"と書けば裁縫で縫い目が崩れないよう、本縫いの前にざっと縫いつける"仮止め"を思い浮かべます。サンヨーインダストリーの施すしつけ縫いには、どちらの意味も丁寧に込められています。
そもそも布は、大変柔らかな素材です。そこに、小さいとは言え針で穴を開けながら糸を通していくのですから引っ張られ、よれていきます。服はただ一筋だけ縫えば出来上がるものではありません。様々なパーツの集合体として出来上がります。さらに、飾りやステッチなどもあります。要は、縫い跡だらけなのです。布をコントロールすることはそもそも難易度が高いもの。着心地を追求することと、正確に縫い上げることは相反する行為と言ってもよいのです。
そこで登場するのが、しつけ縫いです。最初からすべての工程をイメージし、布のよれなどを計算しざっくりとパーツを縫い上げ仮止めします。しつけがあるのとないのとでは作業は格段に楽になり、ひとつひとつの作業精度を高めることが出来ます。そのうえ、しつけ縫いによって布を固定することで、布地自体が成るべき形を記憶していきます。特に、胸元や肩のラインなど特徴的な見た目がある箇所では、形状を記憶させ、布同士を馴染ませることで品のある立体感が生まれます。しつけ縫いは、布のずれを防ぐだけでなく、布地に形を教え込むという重要な役目も担っています。
とはいえ、しつけ縫いの分だけ布を傷つけるわけですから、本当に最小限かつ意味のある精度が求められます。サンヨーインダストリーにおけるしつけ縫いは、無理無駄の一切削ぎ落とされた動作が結実したもの。何度見ても、そのダイナミックな行動に目が奪われます。しかしながら、スーツが仕上がった際に一切の後が残らないばかりか、スーツの美しさを存分に引き出しています。工程の意味を理解している職人によって、技術が施されることで、一枚一枚の生地がスーツを成していることを忘れるほど、自然で品格のあるスーツが生まれるのです。